第23回 アイルランド南西部の旅
    2016年9月9日〜16日


アイルランド南西部の海沿いを廻って来ました!!
アイルランドの国土の表面を薄く剥がせばその下はもう石の多い痩せた土地です。辛い飢饉も経験しています。しかし、そのような土地だからこそ自然はさほど人の手に汚されてはおらず、大気には未だどこか太古の息吹さえ感じられます。街を出ればすぐにゆるやかに広がる牧草地、川、池、そして複雑に入り組む入江があります。

ゆったりと牧場を区切る低い仕切りにも土地の石が(それこそふんだんにあるので・・・)使われ、時が経ち草でおおわれ、その所々に樹々が豊かな枝を揺らしています。淡く可愛らしい色とりどりに塗られた小さな農家やウイークエンドハウス、そして、岬の先端の灯台以外には人工の物は見つかりません。どの庭もさっぱりと整えられ広々として無駄なものなど何もありません。

そんな絵本のページをめくるような景色の中を抜けて海辺の小さな町に辿り着けば、その小さな浜の向こうにはまた小さな三角形の島、そこに黒い灯台が立っています。Ballycotton灯台です。すぐ近くの島ですが、橋は無く小さな船で渡ります。15分もかかりませんが、海に出ると結構なうねりです。







この島の灯台は1847年にこの海であった海難事故がきっかけでこの場所に建てられたのも頷けます。海底の形は複雑なようで、この灯台をいわば 扇の要の位置として 両側数十キロの所にも二つの灯台が造られたのです。たくさんの種類の海鳥がいることでも知られる海域です。この灯台を案内してくださったボランティアの方も、そのことがとてもご自慢のようでした。「この海域に棲んではいないのに遠くから餌を求めてやってくる大きな海鳥もよく見られる」と。

灯台は高さ15mですが、海抜59mの島の頂上に建てられています。船着場からは急斜面を頑張って登ります。ランプは外海側が白、町に面している側には赤いフィルムが貼られています。1992年の自動化まで、灯台守りが家族と住み、雨水を貯め、山羊を飼って暮らしていました。子供達、船で町の学校に通っていたそうです。今では島に小さなヘリポートもあります。電球もLEDです。



ホテルへの帰路、美しいCrosshaven村から遠くRoches Pointの灯台を眺めます。ゆるやかに婉曲する湾の右手は柔らかな斜面の牧草地、左手には平たい岬が伸びて、その先に低い白の灯台が見えます。レンズ周りの柵は赤く塗られていて、ちょうど明るく晴れあがった空と青い海の間に愛らしく控えめに立っているのが見えます。個人所有地の向こうにあるので、あまり近づくことはできないので、とても残念です。

アイルランドの天候は目まぐるしく変わります。翌日の天気などいつもどうなるか分からないのです。また、一日のうちでもクルクルと晴れたり、降ったり。

そして、今日、二日目は雨。風もあり、少し荒れ模様です。

今日訪ねるのはGalley Head 灯台です。ここもやはり個人所有となってしまっており、最早機能はしていない灯台です。低い石垣に囲まれ、ずっと続く岬の路を風に飛ばされそうになりながら灯台まで歩きます。岬の先端に近づくと波の花も舞っています。灰色の空、灰青色に沈む海の色、荒い波の寄せる崖。でも、そんな路を灯台まで辿って行くのが嬉しくてなりません。

「灯台巡りはこうでなくっちゃね!」

アイルランド人のバスの運転手には呆れられましたけれど。"Crazy!"って。




三日目の楽しみは Fastnet Rock 灯台です。

岩だけの無人島に建造されたこの灯台は、遥かアメリカを目指した移民たちが最後に見たアイルランドの「点」です。イギリスに支配され、主な作物であるジャガイモの大飢饉に見舞われ、アメリカに渡った後も辛い貧しい日々を余儀なくされたアイルランドの人々の思い出の中の最後の灯りです。"The tear drop of Ireland" なのです。岩の上の54mの白い御影石のやや細めのこの灯台は、世界で最もエレガントな灯台の一つと言われています。

しかし!この日も荒天!島に渡るフェリーは出航しません。アイルランド最南端に位置する断崖の Mizen Head 岬に立つ信号所を訪ね、そこから遥か Fastnet を望むことしかできません。悪天候のための灰色のそらより少し濃いグレーに霞む三角形の小島と爪楊枝の先っぽのような細い細い灯台が遠く遠くに見えました。

このようなけいけんをしたので、その翌晩に聴いたアイルランドの唄は深く胸に届くものがありました。離れたくはなかったこの美しい島国を、人々はどれ程懐かしく思ったことでしょう。そんな人々のたくさんの思いの詰まった灯台の島に簡単に渡れるなんて思ってはいけないのかもしれませんね。


(近くで見るとこんな灯台です。)

Loop Head 灯台は 今でも機能している灯台です。案内の人もいて、階段を登り、レンズのところまで行かせてもらえます。海抜84mの崖の上に建てられている23mの高さの灯台です。使用レンズは、一等級フレネルレンズ、5個ありました。私達は、ドイツからいらしたご夫婦と一緒に登りました。他の国の灯台ファンにお目にかかるのも嬉しいことです。上に登ると、少し先の平たい島にも小さな灯台が 見えます。もう、機能はしていないそうですが、案内の人が "Inis Mean" と島の名をノートに書いてくれました。確か、イニッシュモーンと発音していたと思います。ゲール語と思われ、聞き取りにくい音です。

この灯台の脇には、かつて灯台守りと家族が住んでいた建物などもあり、そこに宿泊することもできます。ただし、"No TV, no Wi-Fi" だそうで、もちろん岬の路に街灯もありませんから、夜ともなれば、さぞ暗く、寂しく、心細く思われることでしょう。







この日は、「モハーの断崖」も訪ねました。高さの200mを超える断崖が海へ垂直に堕ちている有名な観光地です。崖は海へ向かって8kmにわたって馬蹄形に伸びていて、向かい側の崖に目をやれば、ゴマ粒のように見えるカモメが暗く湿った色の崖の前を飛んでいます。観光地ですので、結構人がいるなあ、と思ってしまいましたが、今迄訪ね歩いてきた所が、人がいなさすぎたのです。細い岬の路 など、どれも背の低いエリカや、バターカップやデイジー、たわわに実るブラック ベリーなどがあるばかりで、町に入っても道に人は疎らでしたから。




帰国する日にはギネスビール工場や Trinity College などを観たり。そして、すべての日々、あちこちの町のスーパーマーケットで買い込んだお土産でとても増えた荷物と共に美しい美しい島国を離れたのです。

少し太めのアイルランドの人々は、偉ぶったところのない、こちらのリクエストには面倒がらずに対応しようというしせいが感じられます。良い意味で洗練されていない人々、村々。耳を澄ませば、神々 のこえさえ聞こえてきそうな、アイルランドはそんな処です。








written by  ライトハウスラバーズ 山本 裕子


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